あなたは耐えられるか。既視感に潜む理想の教師の闇に。
本作は貴志祐介著の小説『悪の教典』を原作とするホラー・サスペンス映画です。
マンガ化もされたのですが、これがなかなか読み応えがあっておすすめです。
あらすじ
目的のためならば殺人もいとわない教師の姿を描いた貴志祐介の問題作を、「スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ」「十三人の刺客」の三池崇史監督が映画化。伊藤英明が主演し、自身初の悪役に挑んだ。生徒から慕われ、学校やPTAからの評価も高い高校教師・蓮実聖司は、教師の鑑ともいうべき表向きの顔とは別に、他人への共感能力をまったく持ち合わせていない、生まれながらのサイコパス(反社会性人格障害)という隠された顔があった。いじめ、モンスターペアレンツ、セクハラ、淫行など問題だらけの学校で、自らの目的を達するため、蓮実は躊躇なく殺人を繰り返していく。しかしある日、ほんのささいなミスを犯してしまった蓮実は、それを隠匿するためクラスの生徒全員を惨殺することを決める。共演に二階堂ふみ、染谷将太、林遣都、山田孝之ら。
舞台が学校なので、生徒や先生、教室でのやり取りは誰にでも覚えのある既視感にあふれています。
だからこそ、そこに放たれたサイコパス教師の言動に恐怖し、救いの無さに絶望すると。
見た目はかっこいいし、授業もわかりやすくて人望もありそうな理想の教師が豹変、悪魔だと知ったときの生徒の反応が見どころ。
レビュー【ネタバレあり】
私は、特別な理由がない限りは予備知識を入れずに映画を見ます。今回も同じでしたが、その結果、後半のやっつけ感に触れずにはいられません。
前半は非常に良いテンポ、流れで進みます。最初は蓮見の天使の様な立ち振舞がメインで、生徒に信頼されている場面や、頭の良さが細かく描写されています。
しかし、徐々にその天使が悪魔に変わっていくのです。最初に変化に気づくのは蓮見の住んでいる家。普通では考えられないボロ屋で、そこに平然と住んでいるのです。
それを見てしまうと、それまでの立ち振舞が疑わしく思えてきて、モンスターペアレントの謎の焼死事件、蓮見が以前いた学校での事件等のサイドストーリーがそれを煽り、はっきりと人を殺したと分かるシーンまで繋がっていいきます。
この不安を煽られる感覚はなかなか秀逸で、ここまでは映画に引き込まれていました。
この蓮見、共感能力の欠如したいわゆるサイコパスで、自分にとって邪魔で不都合な人は躊躇なく脅し、殺すところまでは理解できるのですが、辻褄合わせのために文化祭の準備中の生徒を一人ずつ殺すところから、いきなり全員殺戮に変わる時点で違和感。
最初は生徒との駆け引きがあるのですが、途中からは劇中歌と言っても過言ではない『マック・ザ・ナイフ』に合わせてただただ殺戮。正直名前を覚えられるほど特徴のある生徒たちではないので、あっという間に終了。あっけにとられます。
抵抗する生徒も描かれていますが、残る印象の比重が違いすぎる。
そこからエンドまでは大きな山場もなく、見終わって、非常に重たい気分になりました。
ストーリーが優れているかと言えばそうではありません。原作を読んだ人からすると、描いて欲しかった部分が全然足りなかったと。なるほど納得。
教師が生徒を惨殺するというテーマはかなりセンセーショナルで、バトル・ロワイアル以来の衝撃でもあったと思いますが、両作に言えることは、残酷なシーンに頼っている感が出過ぎていること。
確かに残酷なシーンは目を半分覆って怖い怖いと言いながら見たくはなります。でも単純なスプラッター映画ではない以上、もっと力を入れてほしい部分があるのにと思わずにはいられないのかもしれません。
映画の前半のできが良かったのは、背景をしっかりと描いていたからかな。設定や登場人物はかなり魅力的なので、殺戮シーンは省略していきなり死体の山でも納得できたと思います。でも『マック・ザ・ナイフ』は原作でも大事にされていた設定のようなので微妙か。
原作は上下巻に別れた1000ページ近い内容の濃いものなので、そもそも129分に収めるのに無理があったのでしょう。
続編は?
ちなみに続編があるような終わり方でしたが、これはあくまで監督から原作者へのラブコールだそうで、公開からだいぶ経ちましたが音沙汰はありませんね。
もし続編が公開されたら見るかと問われたら金曜ロードショーでならと即答する私の中でこの映画がB級判定されなかったのは、伊藤英明の演技がMagnificentだったから。
あと、校庭のシーンで使われたのは旧静岡県立長泉高校。2008年に移転のため廃校になったところを使ったそうです。